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民泊を始めるなら「旅館業法」「特区民泊」「民泊新法」どれがオススメ?

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[掲載日]2018/06/13 1026 -

2020年、東京オリンピックに向け、さらに注目されている「民泊」。

都道府県知事の許可や届け出が必要になる民泊ですが、民泊営業の始め方には

  1. 旅館業法の簡易宿所営業許可を取得する方法
  2. 特区民泊を活用する方法
  3. 民泊新法により届け出をする方法

の3種類があります。

旅館業法の許可を取得して民泊を始める場合

旅館業法とは?

旅館業法が適用される旅館業は、「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4種で、それぞれ都道府県知事の許可が必要になります。

許可を受けるためには、旅館業法で定める構造や厳しい設備基準を満たさなければならないほか、「政令」「省令」「条例」によっても細かいルールが定められているため、旅館業法の簡易宿所営業許可を取得するのは簡単ではありません。

簡易宿所とは?

旅館業法で「民泊」を営業したい場合は、旅館業の中の「簡易宿所営業」の営業許可が必要です。

簡易宿所とは、宿泊する場所を大勢で共有する構造・設備を持つ宿泊施設のことで、ペンション、山小屋、合宿施設などがこれにあたり、次のような規定があります。

  • 部屋数の規定はないが、構造部分の合計床面積が33平方メートル以上であること
  • 2段ベッドを置く場合には、上段と下段の間隔はおおむね1メートル以上あけること
  • 換気、採光、照明、防湿、排水の設備を有すること
  • 適度な入浴設備(近くに銭湯があれば不要)とトイレを有すること

ただし、各自治体によって簡易宿所の許可基準は異なり、例えば、簡易宿所の周囲100メートル以内に、学校、児童福祉施設、公民館、図書館、博物館、青少年育成施設がある場合は営業許可が下りない地域もあるため、各自治体に確認が必要になります。

特区民泊を活用して民泊を始める場合

早急な改革が求められる事柄に対し、「国家戦略特区」と指定されている自治体があります。

「国家戦略特区」は、国が規制緩和や税制面の優遇を行うことにより、民間企業が事業に参入しやすい地域となっています。

「特区民泊」の正式名称は「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」といいます。

「国家戦略特区」と指定されている自治体で、かつ「民泊条例」を制定している地域で民泊を始めたい場合は、「特区民泊」の申請をすることができます。

【特区民泊を申請できる地域(平成30年5月時点)】

  • 東京都大田区
  • 北九州市
  • 大阪府の一部
  • 大阪市
  • 新潟市
  • 千葉市

「特区民泊」の認定を受けた場合、旅館業法の適用が除外され、構造や設備、細かい運営ルールは各自治体の「民泊条例」が適用されます。

旅館業の簡易宿所営業許可と比較すると、認定条件がかなり緩和されています。

民泊新法の届け出をして民泊を始める場合

新しくスタートするのが、民泊サービスの適正化を図りながら、観光客の来訪、滞在促進を目指すことを目的とした法律「民泊新法」です。

正式名称を「住宅宿泊事業法」といいます。

民泊新法(住宅宿泊事業法)とは?

民泊営業を始めたい場合、今までは旅館業の簡易宿泊所として許可を取得するか、特区民泊を活用する方法しかありませんでした。

しかし、どちらも認定を受けるための条件や、申請のための手続きが複雑であったため、許可を得ずに違法に営業するヤミ民泊が急増し、問題となっていました。

そのため、新しく制定されたのが「民泊新法」です。

自治体へ届け出をすれば民泊営業を始めることができるようになるとともに、民泊ならではのトラブルを防止するための細かいルールと、罰則が設けられています。

民泊新法で定められている民泊サービス

民泊には、民泊オーナーの生活している住宅の一部を貸し出す家主居住型(ホームステイ型)と、民泊オーナーの生活拠点ではなく所有している家やマンションの1室を貸し出す家主不在型(投資型)の2つのタイプがあります。

家主不在型は、監視の目や注意できるオーナーが近くにいないことから、宿泊客がハウスルールを守らなかったり、羽目を外しやすい傾向にあります。

「騒音」や「ゴミ出し」で近所の住人とトラブルになることも多いため、今まで自分一人で問題なく運営できていた民泊オーナーも、国土交通大臣の登録を受けた「住宅宿泊管理業者」に民泊施設の管理・運営を委託しなくてはならなくなりました。

民泊を始めるなら「旅館業法」「特区民泊」「民泊新法」どれがオススメ?

「旅館業法」「特区民泊」「民泊新法」の違いについて比較してみましょう。

項目 民泊新法(居住型) 民泊新法(不在型) 特区民泊 旅館業法(簡易宿所)
収益性
営業日数 180日 180日 365日 365日
実地エリア 全国(規制エリアを除く) 全国(規制エリアを除く) 特区 全国
宿泊日数制限 なし なし 2泊3日以上 なし
費用 無料 無料 21,200円 22,000円
住居専用地域 × ×
契約形態 宿泊契約 宿泊契約 賃貸借契約 宿泊契約
宿泊者名簿 必要 必要 必要 必要
苦情受付 事業者 住宅宿泊管理業者 事業者 事業者
フロント設置 なし なし なし 必要
居室の床面積 3.3㎡以上(1人あたり) 3.3㎡以上(1人あたり) 25㎡以上 3.3㎡以上
自動火災報知機 必要 必要 必要 必要
標識 必要 必要 必要 必要

「旅館業法」「特区民泊」「民泊新法」を比較するうえで重要になってくるのが、営業日数でしょう。

年間どのくらい営業し、どのくらいの収益を上げたいのかがポイントとなってきます。

なぜなら、旅館業法、特区民泊で認可を受けた場合は、年中無休365日営業可能ですが、民泊新法では営業日数に上限が設定されているからです。

民泊新法の営業日数は?


民泊新法では、人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えてはいけないという規定があります。

なぜ180日なのかというと、民泊新法では、「民泊」を行うことができる施設は「住宅」という位置づけになっており、1年(365日)の半分以上を不特定多数の観光客に有料で貸し出している家はもはや「住宅」とはいえないとされているからです。

さらに、民泊新法は、各自治体が「民泊条例」でさらに規制をかけることが可能となっています。

【民泊条例とは・・・?】
各自治体が独自に制定した民泊のルールです。
その地域の事情に合わせ、営業区域や期間制限を設けています。

民泊については賛否両論あり、地域によっても考え方が違うため、民泊に消極的な自治体では、180日という営業日数の上限をさらに短縮する条例を制定しているところもあります。

例:東京都23区の場合

区によっても少しずつ変わってきますが、通勤・通学などで住宅地の区民が不在になることが多い平日(日曜正午~金曜正午まで)の民泊営業を禁止し、土日の宿泊のみを認めている自治体が多いです。

土日のみの営業しかできないとなると、年間営業日数は105日程度となってしまいます。

民泊で利益を上げるためには・・・

民泊で利益を上げるには「特区民泊」がオススメ

民泊を始めたい地域が、特区民泊の対象地域であれば、迷わず特区民泊の認可取得をオススメします。

特区民泊であれば、旅館業法の簡易宿泊営業許可と同じように365日営業することが可能だからです。

特区民泊では、2泊3日以上の滞在という宿泊条件が付くため、1泊予定の宿泊客を泊めることはできないというデメリットはありますが、長期滞在客を確保できれば利益も増加します。

特区民泊を申請できない地域の場合は?

特区民泊を申請できない地域の場合で、利益を第一に考えるのであれば、旅館業法の簡易宿泊営業許可を取得しましょう。

営業日数がネックの民泊新法

届け出だけで事業を開始できるため、民泊を始めやすいのがメリットですが、収益面を考えると営業日数がネックになります。

利益を上げるためには、1年間で最大180日しか営業できないことから、残りの日数を有効に活用しなければなりません。

残りの日数は、マンスリーマンションとして運営するなど、経営センスや経営努力が必要になってきます。

特に、家主不在型の民泊の場合は、国土交通大臣の登録を受けた「住宅宿泊管理業者」に民泊施設の管理・運営を委託しなくてはならなくなったため、その費用も頭に入れなくてはなりません。

外国人観光客と交流を持ちたい、外国人観光客の助けになりたい、所有しているマンションを少しでも活用したいという目的であれば、民泊新法での民泊営業もありだと思います。

しかし、もともと低価格だった宿泊料金に、営業日数の制限と業務委託が義務づけられたため、ビジネスとしては参入しづらくなったのではないでしょうか。