民泊ってホテルや旅館と何が違うの?オーナー側、利用者それぞれの視点で比較。
[更新日]2018/04/17 532 -

旅行先で泊まる場所を探そうと思った時、まず思い浮かぶのが「ホテル」「旅館」「民宿」「ペンション」だと思いますが、最近はここに「民泊」という選択肢が入るようになってきています。
「ホテル」「旅館」「民宿」「ペンション」といったこれらの宿泊施設と「民泊」は、何が違うのでしょうか。
それぞれの宿泊施設の特徴や、メリット・デメリットを比較してみたいと思います。
そもそも「民泊」ってなに?
「民泊」とは、個人宅の空き部屋や、所有しているマンションの空き室などを、インターネットを介して旅行者に有料で貸し出す宿泊サービスのことです。
外国人観光客の増加による宿泊施設の不足や、旅行客の宿泊ニーズの多様化、少子高齢化による空き家増加といった問題から生まれた新しい宿泊ビジネスです。
「民泊」の普及とともに、民泊施設を貸したい人と、民泊施設に泊まりたい人をマッチングさせる「仲介業者」も続々と誕生しています。
ホテルなどの宿泊サービスと民泊サービスの違い
ホテル・旅館・民宿・ペンションといった宿泊サービスと、民泊サービスの大きな違いが、適用される法律が違うということです。
ホテル・旅館・民宿・ペンションは「旅館業法」、民泊は「民泊新法」の適用を受けます。
旅館業法とは?
旅館業法では、旅館業のことを「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義しています。
旅館業には「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4種があり、それぞれ都道府県知事の許可が必要になります。
許可を受けるためには、旅館業法施行令で定める構造設備基準を満たさなければならないほか、政令・省令・条例によって、旅館業を運用するための細かいルールが定められています。
ホテル営業
旅館業法でいう「ホテル営業」は、洋式の構造・設備を主とする施設を持ち、都道府県知事の許可を受けて営業する宿泊業であるとされており、次のような規定があります。
- 様式のお部屋が10室以上
- 1部屋あたりの広さが9平方メートル以上
- 寝具は、洋式のもの(ベッド)を使用すること
- 出入口・窓は、鍵をかけることができるものであること
- 客室と客室、客室と廊下の境は、壁造りであること
- 適当な数の洋式浴室、またはシヤワー室、トイレを有すること
- フロント設備を有すること
旅館営業
旅館業法でいう「旅館営業」は、和式の構造、設備を主とする施設を持ち、都道府県知事の許可を受けて営業する宿泊業であるとされており、次のような規定があります。
- 和式のお部屋が5室以上
- 1部屋あたりの広さが7平方メートル以上
- 適当な規模の入浴設備、適当な数のトイレを有すること
- フロント設備を有すること
簡易宿所営業
旅館業法でいう「簡易宿所営業」は、宿泊する場所を大勢で共用する構造・設備を持ち、都道府県知事の許可を受けて営業する宿泊業であるとされており、次のような規定があります。
- 部屋数の規定はないが、構造部分の合計床面積が33平方メートル以上
- 2段ベッドを置く場合には、上段と下段の間隔はおおむね1メートル以上
- 換気、採光、照明、防湿、排水の設備を有すること
- 適度な入浴設備(近くに銭湯があれば不要)とトイレを有すること
各自治体によって簡易宿所の許可を得るための基準は異なり、例えば簡易宿所の周囲約100m以内に、学校、児童福祉施設、公民館、図書館、博物館、青少年育成施設がある場合は営業許可が下りない地域もあります。
「ホテル営業」や「旅館営業」の基準に達しない宿泊施設や、階層式寝台(2段ベッド)を設置している施設はこの簡易宿所に該当します。
例えば、小規模の民宿、ペンション、合宿施設、山小屋などです。
下宿営業
旅館業法でいう「下宿営業」は、ひと月以上の期間を単位として宿泊させ宿泊料を受けとる営業であるとされています。
下宿営業をするには、都道府県知事の許可を受ける必要がありますが、実際にこの許可を取得することはあまり多くはないようです。
なぜなら、1カ月以上の期間が単位であるならば、「賃貸借契約」として扱うことができるからです。
民泊新法とは?
以前は「民泊サービス」にも「旅館業法」が適用されていました。
しかし、住宅やマンションの一部屋を貸し出すタイプの「民泊」では、旅館業の許可を取得することが難しかったため「ヤミ民泊」が急増し、問題となっていました。
文化の違う外国人観光客が、入れ替わり立ち替わり頻繁に出入りすることで、近隣住民とのトラブルが発生したり、犯罪の温床ともなっていました。
これらの問題を解決するために、2018年6月15日に民泊に関する細かいルールを定めた「民泊新法」が公布されました。
民泊新法は、正式には「住宅宿泊事業法」といい、民泊サービスの適正化を図りながら、観光客の来訪・滞在促進を目指すことを目的とした法律です。
ホテル・旅館・民宿・ペンションの違いとは?
ホテル・旅館・民宿・ペンションと、民泊は適用される法律が違うこと、施設や設備に決まりがあることもわかりましたが、宿泊するうえでは、どのような違いがあるのでしょうか。
ホテルなどの宿泊施設と「民泊」を比較する前に、まずは「ホテル」「旅館」「民宿」「ペンション」の特徴と、メリット・デメリットを比較してみましょう。
ホテルに宿泊するメリット・デメリット
観光客向けの観光ホテルやリゾートホテルだけでなく、出張に便利なビジネスホテル、結婚式、宴会などの催し物を執り行えるような設備を持つシティホテルなど、様々なタイプの「ホテル」があります。
各部屋に、シャワールーム・洋式トイレが完備されています。
【ホテルに宿泊するメリット】
- プライバシー保護とセキュリティー対策は万全
- 宿泊料のみで宿泊可能
- 時間に融通が利く
ホテルの一番のメリットといえば、プライバシー保護とセキュリティー対策が万全なことでしょう。
防音対策が取られているのはもちろん、ドアの鍵もオートロックでセキュリティのしっかりしているものを使用しています。
「起こさないでください」「掃除しないでください」といったプレートを使用すれば、部屋にスタッフが入ってくることもありません。
基本的に室料のみ、あるいは1泊朝食付きで宿泊することができ、食事は別料金となっていることが多いです。
好きな時間に好きな食事をとれるため、レストランに行くのも良し、ルームサービスを利用するのも良し、他人に干渉されずに自分のペースで過ごすことができます。
【ホテルに宿泊するデメリット】
- 日本流のおもてなしは期待できない
- 食事は自分で調達しなければならない
- 基本的にホテル内は土足利用
基本的に、ホテルのスタッフは、こちらから要望しない限り何もしてくれません。
必要なことがあれば、申し立ててサービスを受けるというスタイルです。
食事は別料金となっていることが多いため、自分でレストランを予約したり、食事を調達するなど手間が必要になります。
洋式スタイルのホテルは、外国のようにホテル内もお部屋も土足で過ごすことになるため、靴を脱いで足を伸ばしてくつろぎたいという人には、過ごしづらいかもしれません。
旅館に宿泊するメリット・デメリット
女将に仲居さん、おもてなし精神溢れるサービスが特徴的な「旅館」。
大浴場などお風呂が充実している一方、各部屋に浴室やトイレがないタイプの旅館も多いです。
【旅館に宿泊するメリット】
- 仲居さんの至れり尽くせりのサービス
- 温泉や露天風呂などお風呂が充実している
- 部屋食に対応してくれる
- 館内を浴衣で歩ける。部屋は裸足でくつろげる
部屋専属の仲居さんが、お茶や食事の支度、布団を敷くといったお部屋のお世話から、部屋から見える景色の説明、穴場のレジャースポットを紹介してくれるなど、上げ膳据え膳、至れり尽くせりお客差に寄り添ったサービスをしてくれます。
基本的に1泊2食付きという旅館が多いため、ホテルと違い食事の心配はありません。
部屋食に対応してくれる旅館も多く、食事は仲居さんがすべて配膳してくれます。
赤ちゃんがいる場合は、部屋食であれば畳の上に寝かせておくこともできますし、泣いても他人に気を遣わずゆっくりと食事をすることができます。
旅館では、ホテルと違い浴衣にスリッパで館内を歩いても問題なし。リラックスした時間を過ごせるでしょう。
【旅館に宿泊するデメリット】
- 部屋に仲居さんが頻繁に出入りする
- 時間に融通が利かない
仲居さんが何から何までお世話をしてくださるので、部屋に仲居さんが出入りすることになりますから、あまり干渉されたくない人にとってはデメリットになるでしょう。
1泊2食付きが基本サービスとなっていることが多いので、食事の心配はないのですが、食事の支度の関係でチェックイン・チェックアウトの時間や、食事の時間も決まっています。
遅くまで観光を楽しめたり、朝早くチェックアウトできるホテルと比較すると、時間に関しては融通が利かない面もあります。
民宿・ペンションに宿泊するメリット・デメリット
「民宿」や「ペンション」は、個人(家族)で運営していることが多く、家族ぐるみでお客をもてなすアットホームな雰囲気が特徴です。
- ホテルや旅館と比較すると割安
- 家庭的なおもてなし
民宿やペンションは個人経営(家族経営)であることが多く、設備やサービスは「ホテル」や「旅館」よりも劣るため、安めの料金設定となっています。
食事は、地元で採れた野菜や特産品を使用した家庭料理を味わうことができたり、オーナーのこだわりのお料理が楽しめます。
リビングでオーナーや他の宿泊客と談笑したり、ゲームをしたり、オーナーが飼っている動物と触れ合えたりと、家庭的なおもてなしを受けることができます。
特にペンションは、オーナーの趣味やこだわりが色濃く反映され、個性的な宿も多いです。
【民宿やペンションに宿泊するデメリット】
- 設備面・サービスは期待できない
- 気を遣う
ホテルや旅館では当たり前のように置いてある「アメニティーグッズ」ですが、民宿やペンションでは用意していないところ、用意はあるが別料金が発生するところが多いです。
簡易な浴場が1つしかないといった所もあり、順番待ちが発生したり、他の宿泊客が気になってゆっくり入れなかったというようなことも起こります。
トイレも共同であることが多いです。
一軒家を改築して営業しているペンションなどでは、客室と客室の壁が薄いことも多く、話し声や子どもの泣き声などにも気を遣わなくてはなりません。
民宿やペンションでは、オーナー夫妻や、他の宿泊客との交流も魅力ではあるものの、人見知りであったり、干渉されたくない人にとってはデメリットになるでしょう。
ホテル・旅館・民宿・ペンションの違い
同じ「旅館業法」が適用されるホテル・旅館・民宿・ペンションですが、特徴をわかりやすくまとめると次のようなことがいえると思います。
- ホテル・・・欧米の洋式スタイルでプライバシー重視
- 旅館・・・日本の生活様式でおもてなし重視
- 民宿やペンション・・・割安な料金と家庭的な雰囲気
民泊を利用するメリット・デメリットは?
ホテル・旅館・民宿・ペンションを利用するうえでのメリット・デメリットはおわかりいただけたと思います。
では、これらの宿泊サービスと、個人所有の住宅を有料で貸し出す「民泊」とではどういった違いがあるのでしょうか。
民泊サービスを利用するうえでの、メリット・デメリットをみていきましょう。
民泊を利用するメリット
- ホテルや旅館よりも安く泊まれる
- 個性的な部屋に泊まれる
- 民泊施設にはキッチンが付いているので自炊ができる
- ホームステイ感覚で楽しめる
ホテルや旅館よりも安く泊まれる
民泊は、1人当たりの料金がホテルや旅館よりも安くなるため、コスパの高さが人気です。
個性的な部屋に泊まれる
オーナーの趣味やこだわりによっては、ユニークなお部屋があります。
例えば、漫画喫茶のような部屋、オーナーの好きなキャラクターで溢れている部屋など、個性的な部屋もありますし、外国の民泊では「船」や「お城」まで借りることができます。
民泊施設にはキッチンが付いているので自炊ができる
ホテルや旅館と違い、自炊ができるので、旅行でなくてもパーティや合宿といった用途でも使用することができます。
ホームステイ感覚で楽しめる
民泊施設には、家主居住型(ホームステイ型)と、家主不在型(投資型)の2つに分類されるのですが、オーナーと同じ屋根の下で過ごす家主居住型(ホームステイ型)の民泊の場合、オーナーやオーナーの家族との交流も楽しむことができるでしょう。
中には、宿泊者との交流を求めていないオーナーもいますので、様子を見ながら過ごすのがいいかと思います。
民泊を利用するデメリット
- 「ホームステイ型」の民泊の場合、オーナーとの相性が重要
- 掃除は自分で行う必要がある
- 細々としたトラブルが起こりがち
「ホームステイ型」の民泊の場合、オーナーとの相性が重要
オーナーと同じ屋根の下で過ごす家主居住型(ホームステイ型)の民泊の場合、オーナーの人柄や、オーナー一家との相性が重要になってきますが、こればっかりは行ってみないことにはわかりません。
実際に、オーナーとの相性が悪く、滞在途中で出ていって欲しいと言われたというようなことも起こっています。
掃除は自分で行う必要がある
スタッフや仲居さんが部屋の掃除を担当してくれるホテルや旅館と違い、民泊の場合は自分たちで掃除をする必要があります。
細々としたトラブルが起こりがち
部屋や設備が写真とは違った、言われていた条件と違った、レビューの評価を信じて選んだが全く違っていたという体験談もあります。
ホテルや旅館では当たり前に置いてある「アメニティグッズ」ですが、民泊ではほとんどの場合、自分で用意していくと思っていた方がいいです。
なかったら、現地調達すればいいや・・・と思っても、立地が悪く現地調達が困難なこともありますので、事前に民泊施設の周囲も調べておくことが大切です。
ホテルや旅館での、設備やおもてなし、サービスが当然と思っている人にとっては、泊めさせてもらっているという感覚の「民泊」は合わないかもしれません。
また海外での民泊を利用する場合は、特に注意が必要です。
なぜなら、基本的にすべて英語でのやり取りになるため、トラブルになることが多いからです。
似ているようで違う「民宿」と「民泊」
「民宿」と「民泊」、名前が似ているので、勘違いしてしまう人も多いようです。
民宿は、宿泊用に設備が整えられた施設であるのに対し、民泊は一般の住宅です。
これから宿泊サービスを始めようとしているオーナーにとっても、民宿を営業するのと民泊を営業するのとでは大きく異なるため注意が必要です。
開業するなら「民宿」「民泊」どちらがいい?
「民宿」は旅館業法でいう「簡易宿所営業」に分類されます。
簡易宿所営業は、民宿に限らず、ペンションや合宿施設、山小屋なども含まれ、都道府県知事の許可が必要です。
施設や設備など細かい規定があり、許可の申請が下りるまでにも時間を要します。
これに対し、民泊新法(住宅宿泊事業法)による規制を受ける「民泊」は、都道府県知事に届け出をするだけで良いので、比較的短期間で営業を開始することができます。
ここまで説明すると、「民泊」を始める方がいいのでは?と思いがちですが、「民泊」には致命的なデメリットがあるため注意が必要です。
民泊営業の致命的なデメリットとは?
民泊営業の致命的なデメリットとは、「民泊新法」によって、営業日数の上限が設定されていることです。
人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないこと、つまり1年間で最大180日しか営業できないということです。
民泊新法(住宅宿泊事業法)によると、民泊を行うことができる施設は「住宅」という位置づけになっています。
1年(365日)の半分以上を、他人に有料で貸す宿泊サービスに活用している家は「住宅」とはいえないという考えから、営業日数の上限が180日となっているのです。
また、民泊新法(住宅宿泊事業法)は、自治体が条例などで更に規制をかけることも可能です。
「民泊」に反対する自治体では、180日という営業日数の上限をさらに短縮する条例を制定することもできるので、民泊事業がさらに厳しくなる場合もあります。
限られた営業日数で利益を出さなければならないため、民泊で利益を上げるためには、経営センスや経営努力が必要であることは確かで、ビジネスとして参入しづらいといった面があります。
これに対し、「民宿」の場合は、営業日数に決まりはありません。
年間を通じた収益性だけを考えた場合、民宿をはじめとする「簡易宿所営業」のほうが魅力的であることは間違いありません。