民泊新法と民泊条例の違い。民泊運営に人気の東京と大阪の民泊条例【まとめ】
[掲載日]2018/04/17 537 -

外国人観光客の急増による宿泊施設の不足や、人口減少・少子高齢化による空き家・空室増加の両方を解決できるとして、個人宅の空き部屋や、所有しているマンションの空き室などを旅行者に有料で貸し出す宿泊サービス「民泊」が注目されています。
民泊について定めた民泊新法(正式名称は住宅宿泊事業法)が公布されたことにより、「民泊ビジネス」への期待はさらに高まり、新たに民泊ビジネスに参入する企業も増えています。
民泊新法(住宅宿泊事業法)は、民泊サービスの適正化を図りながら、観光客の来訪・滞在促進を目指すことを目的とした法律なのですが、民泊の営業を始める時には「民泊新法」以外にも、自治体の民泊条例、建築基準法、消防法などクリアしなければならない規定が多く存在します。
今回は、「民泊新法」と「民泊条例」の関係についてまとめていきたいと思います。
民泊新法(住宅宿泊事業法)とは?
民泊新法(住宅宿泊事業法)は、民泊のルールについて国が定めた法律で、民泊サービスの適正化を図りながら、観光客の来訪・滞在促進を目指すことを目的としています。
【民泊新法の特徴】
- 民泊新法では営業日数の上限が設定されている
- 民泊に使用できる宿泊施設は「住宅」という位置づけ
民泊新法では営業日数の上限が設定されている
民泊新法では民泊の営業日数に上限が設定されており、1年間で最大180日しか営業することができません。
民泊新法(住宅宿泊事業法)によると、民泊を行うことができる施設は「住宅」という位置づけになっています。
1年(365日)の半分以上を、他人に有料で貸す宿泊サービスに活用している家は「住宅」とはいえないという考えから、営業日数の上限が180日となっているのです。
1年で180日以上営業する場合は「民泊施設」とは認められないため、民泊新法ではなく旅館業法が適用されますから、旅館業法の「簡易宿所」の営業許可を取得していない民泊は「旅館業法違反」となり罰せられます。
民泊に使用できる宿泊施設は「住宅」という位置づけ
民泊新法では、民泊として使用できる(届け出ができる)住宅に条件はあるものの、普通の住宅でも宿泊サービスを提供することができます。
【民泊の届け出がができる住宅とは?】
- 台所、浴室、便所、洗面設備が供えられた施設
- 現に人の生活の本拠として使用されている住宅であること
- 入居者の募集が行われている住宅であること
- 随時その所有者、賃借人の居住の用に供されている住宅であること
「随時その所有者、賃借人の居住の用に供されている住宅」とは、年数回利用する別荘、休日に生活しているセカンドハウス(別宅)、転勤により一時的に生活の本拠を移しているもの、将来的な居住のために所有している空き家などが該当します。
民泊条例とは各自治体が独自に制定した民泊のルール
「民泊条例」が制定された理由とは?
国が定めた「民泊新法」があるのに、なぜ各自治体でも「民泊条例」を制定するのでしょうか?
民泊新法が公布される以前、宿泊サービスを提供する場合は、旅館業の許可が必要であり、旅館業の許可が必要なホテルや旅館といった宿泊施設は「建築基準法」や「都市計画法」によって建てられる場所が決まっていました。
建築物の敷地、構造、設備、用途に関する最低限の基準を定めた法律のこと。
建物を建築する際は必ず、建物の用途=どのような目的の建築物なのかを申請しなくてはならない。
都市の健全な発展などを目的として定められた法律のこと。
どの地域にどの用途の建物を建てられるかを定めている「用途地域」があり、建てられる建物の用途に一定の制限を設けている。
なぜ建てられる建物に制限があるのかというと、例えば「住宅」「商業施設」「工場」といった目的が違う様々な建物を、好きな場所に無秩序に建築してしまうと、生活環境が悪化したり、利便性が低下したり、仕事が非効率化してしまう可能性が高くなるからです。
都市の健全な発展、快適な環境を守り、秩序ある整備を図るために「建物の用途」や「用途地域」が決められているというわけです。
本来、不特定多数の人が出入りする宿泊施設は、住宅地域には建てることができません。
しかし、民泊新法では民泊施設は住宅という位置づけであるため、今までは禁止されていた住宅地域での宿泊営業が可能になりました。
住宅地域での宿泊営業で起こりうる様々な問題を懸念し、各自治体でその地域の事情に合わせた「民泊条例」を制定しているのです。
民泊条例ではどんなことを規制しているの?
住宅地域での営業が可能になった「民泊」。
住宅地域は、住環境を守る地域ですので、文化や習慣の違う外国人観光客が多数押し寄せると、住環境が損なわれてしまう可能性があります。
不特定多数の外国人が入れ替わり立ち替わり頻繁に出入りすることで、嫌悪感を感じる人、治安面で不安を感じる人も多いことから「民泊」に消極的な自治体や、「民泊」を良しとしない自治体もあります。
そういった自治体では、民泊新法で180日と定められている営業日数に更に規制をかけたり、「民泊」を許可する地域に規制をかける「民泊条例」を制定しています。
民泊施設が求められている都市とは?
外国人観光客の急増により宿泊施設の不足が報じられていますが、特に客室稼働率が上昇しているのが「東京都」と「大阪府」です。
民泊事業の拡大が求められる「東京都」と「大阪府」ですが、各自治体の民泊条例はというと「民泊」を営業するには厳しい条件となっているようです。
例として、東京都の民泊条例をみてみましょう。
東京都の民泊条例【東京都中央区の場合】
事業所と住宅が共存し、マンション住まいの住人が多い東京都中央区では、防犯上の理由から、民泊営業ができる期間を制限し、住宅宿泊事業者に義務を課しています。
民泊営業期間の限定
通勤・通学などで区民が不在となることが多い平日の民泊営業を制限しています。
区内全域で、土曜正午~月曜正午の宿泊のみを認め、月曜正午~土曜正午まで民泊営業を禁止しています。
民泊を行うオーナー(住宅宿泊事業者)の義務
東京都中央区では、民泊の営業を始める際に、民泊を行うオーナー(住宅宿泊事業者)に次のようなことを義務づけるとともに、悪質な民泊事業者に対しては、必要に応じて立入調査や法違反に対する業務改善命令などを行うとしています。
周辺地域への説明会の実施
民泊の届出の7日前までに、近隣住民の方々へ説明会を行うこと。
トラブル発生時の速やかな対応
届出住宅で、トラブルや苦情があったときにすみやかに駆け付ける体制をとること。
ゴミ処理の徹底
宿泊者が出すゴミについて事業者の責任で処理を行うこと。
宿泊者のマナー厳守
宿泊者に騒音の防止や、ゴミ出しのルールなど、宿泊の際のマナーやルールの厳守を対面で説明すること。
東京都の民泊条例【東京都豊島区の場合】
住宅地と商業地が混在し、繁華街のすぐ近くに住宅地がある東京都豊島区の民泊条例はどのようになっているのでしょうか。
東京都豊島区では、住宅宿泊事業者(オーナー)に適切な届出・運用をしてもらうことで、安全・安心・健全で、地域に受け入れられる開かれた住宅宿泊事業を目指しています。
民泊の営業に区域・期間制限を設けていませんが、民泊事業の届け出や運営に際しては次のように定めています。
事業の届出に際し事前に行うこと
- 敷地境界線から概ね20mの範囲内の住宅の住民に対して、民泊実施の説明をすること
- 消防署への事前相談、安全措置チェックリストの作成を行い住宅の安全を確保すること
- マンションで民泊営業をする場合は、管理規約などで民泊事業を禁止していないかどうか確認すること
- 家主不在型(投資型)民泊を営業する場合は、「住宅宿泊管理業者」に委託すること
- 宿泊者名簿の正確な記載のため、対面による本人確認と鍵の手渡しをすること
- 苦情やトラブルが起きた際は、30分以内に駆けつけ速やかな対応をすること
- 共同住宅で営業する場合には、法で定める標識のほか、郵便受けなどに区が指定する標識を掲示すること
事業の運営に関しての義務
- 民泊で発生した廃棄物は事業系ごみとして適正に処理すること
- 周辺地域の生活環境への悪影響の防止のため、善良な風俗を保持すること
- 感染症防止や定期清掃と換気など衛生上必要な措置を実施すること
- 周辺地域との良好な関係づくりに努めること
- 町会・自治会や学校などへの配慮と、区内の観光スポットや地域の商店街情報、祭礼などの情報提供をすること
- 区、警察、消防等への誠実な対応を心がけること
東京都の民泊条例【まとめ】
東京都中央区・東京都豊島区の民泊条例を例としてあげましたが、他の地域ではどのような規制があるのでしょうか。
東京都の民泊条例では、営業できる期間の制限、営業できる地域の制限、家主居住型(ホームステイ型)の民泊のみを認めるケース、家主不在型(投資型)の民泊にのみ制限をかけるケースが目立ちました。
東京都港区
家主居住型は、年間を通して営業可能。
住居専用地域の家主不在型は、春・夏・冬休み以外の民泊営業を禁止。
東京都新宿区
住居専用地域では、月曜正午~金曜正午まで民泊営業を禁止。
東京都文京区
住居専用地域と文教地区では、月曜日~木曜日まで民泊営業を禁止。
届出15日前までに近隣住民に周知すること。
東京都台東区
家主不在型は全域で、月曜正午〜土曜正午まで民泊営業を禁止。
家主居住型と、管理者が常駐する家主不在型の民泊営業は制限なし。
東京都千代田区
文教・学校周辺等で日曜正午~金曜正午まで民泊営業を禁止。
東京都江東区
住居専用地域の一部で、月曜正午~土曜正午まで民泊営業を禁止。
東京都品川区
一部地域で、月曜正午〜土曜正午まで民泊営業を禁止。
東京都目黒区
区内全域で、日曜正午~金曜正午まで民泊営業を禁止。
届出15日前までに近隣住民に周知すること。
東京都大田区
ホテル、旅館の建築が可能な用途地域でのみ営業を認める(住宅専用地域での民泊営業は禁止)
東京都世田谷区
住居専用地域では、月曜正午~土曜正午まで民泊営業を禁止。
東京都渋谷区
住居専用地域、文教地区では、春・夏・冬休み以外の民泊営業を禁止。
東京都中野区
住居専用地域では、月曜正午~金曜正午まで民泊営業を禁止。
対面による本人確認を行うこと。
東京都杉並区
住居専用地域では、家主不在型の民泊は、月曜正午~金曜正午まで禁止。
東京都荒川区
区内全域で、月曜正午〜土曜正午まで営業を禁止。
東京都板橋区
住居専用地域では、日曜正午~金曜正午まで民泊営業を禁止。
東京都練馬区
住居専用地域では、月曜正午~金曜正午まで民泊営業を禁止。
東京都足立区
住居専用地域では、月曜正午~金曜正午まで民泊営業を禁止。
大阪府の民泊事情
ユニバーサルスタジオジャパン、道頓堀、大阪城、通天閣など、外国人観光客に人気の観光スポットを数多く抱える大阪府は、「特区民泊」が可能な地域も多かったため、民泊施設自体は多いのですが、その多くが許可を取らずに営業している違法民泊(ヤミ民泊)で問題となっていました。
特区民泊が可能な大阪市
民泊新法が公布される以前、料金を受け取って人を宿泊させる事業を行う場合、「旅館業法」の簡易宿所の営業許可を取得するか、「特区民泊」の認定を受けるかのどちらかでした。
しかし、一般の住宅を活用して民泊を行いたい場合、旅館業法の「簡易宿所」の許可を取得するのは、困難でした。
人を宿泊させる施設は、「建築基準法」や「都市計画法」によって建てられる地域が決まっているほか、建物の構造や人を宿泊させるための厳しい設備基準を満たす必要があったからです。
国が特別に認めた区域に限り、民泊営業の認定を受けることで、旅館業法の適用が除外される制度です。
特区民泊の認定を受けることで、旅館業法の適用が除外され、民泊を始めやすくはなったのですが、自治体の定めた「民泊条例」には従う必要がありました。
「民泊条例」では、地域住民を守るために住宅専用地域での営業が禁止されていたり、最低宿泊日数(大阪では2泊3日以上でなければ宿泊させることができない)などの規定があったため、違法民泊(ヤミ民泊)は増え続け、近隣とのトラブル、治安の悪化、犯罪の温床となっていました。
「民泊新法」が公布されたことで「ヤミ民泊」の禁止事項や罰則も明確になったため、「ヤミ民泊」の減少と、適正な民泊施設の運用が期待されています。
大阪府の修正された「民泊条例」
民泊新法が公布されたことに伴い、大阪府では「民泊条例」の修正が行われました。
【修正された民泊条例】
- 住居専用地域における民泊営業をすべての期間で禁止(幅4メートル以上の道路に接する住宅の敷地は除く)
- 小学校の敷地の周囲100メートル以内の区域では、月曜日の正午~金曜日の正午までの民泊営業を禁止
大阪市で民泊を行う場合
「特区民泊」が可能でもある大阪市と大阪府の一部の地域では、民泊を行う場合は「特区民泊」の認定を受けて営業するか、「民泊新法」の届け出をして住宅宿泊事業として営業するかを選択できるようになります。
住宅宿泊事業として民泊営業を行う場合、民泊新法で1年間の営業日数が最大180日と定められています。
これに対し、「特区民泊」の認定で民泊営業を行う場合は、営業日数の制限はないため1年365日営業が可能です。
法人による民泊事業参入や、利益を重視したい場合は、1年365日の営業が可能な「特区民泊」での営業の方が良さそうです。