民泊営業を始めるための手続きはどうやるの?手順と注意すべきポイント。
[更新日]2018/04/13 1315 -

「民泊」というと、田舎体験型の宿泊サービスを思い浮かべる人も多いと思いますが、最近ですと「民泊」といえば、一般の住宅を有料で観光客に貸し出す宿泊サービスを指す場合が多いです。
ホテルや旅館よりも安く泊まれるということもあり、特に外国人旅行者に人気があります。
外国人旅行者の急増による宿泊施設の不足と、少子高齢化に伴う空き家問題から生まれた、新しい宿泊ビジネスである「民泊」を始めてみたいという相談も日に日に増えています。
民泊営業を始めるために知っておくべきポイントや、民泊営業を始めるための手続きについてまとめました。
民泊新法の公布によって変わりつつある「民泊」
これまで「ヤミ民泊」が犯罪の温床になっていたり、近隣とのトラブルも多発し、良いイメージのなかった「民泊」ですが、これらの問題を解決するために2018年6月15日に民泊に関する細かいルールを定めた「民泊新法」が公布されました。
また、インターネットを通じて民泊施設を貸したい人と民泊施設を探している人をマッチングさせる住宅宿泊仲介業者の展開により、日本でも「民泊」が少しずつ身近なものになってきています。
それに伴い、自宅の空き室や、所有するアパートやマンションの空き室を有効活用するために「民泊事業」を始めたいと考える人も増えてきています。
「民泊」を始めるにはどうしたらいいの?
ホテル・旅館・民宿・ペンションなどの宿泊サービスを始める場合には、都道府県知事の「許可」が必要になりますが、民泊サービスを始める場合は、都道府県知事に「届け出」をするだけで、営業を開始することが出来ます。
手続き自体の難易度が低く、届け出をしてから申請が下りるまでの期間も2週間程度なので、短期間で事業をスタートすることができます。
民泊の届け出をする前にデメリットを知っておこう
物件さえあれば簡単に始められる一方、抱えている問題も多いのが「民泊」です。
民泊事業を始めるにあたって申請前に知っておくべき問題がいくつかあります。
【民泊営業の問題点】
- 営業日数に上限が定められている
- 大きな収益は期待できない
- 近隣住民とトラブルになりやすい
営業日数に上限が定められている
民泊営業を始めるにあたって覚えておかなければならないのが「民泊新法」によって、営業日数に上限が定められているということです。
人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないこと、つまり1年間で最大180日しか営業できないということです。
民泊新法(住宅宿泊事業法)によると、民泊を行うことができる施設は「住宅」という位置づけになっています。
1年(365日)の半分以上を、他人に有料で貸す宿泊サービスに活用している家は「住宅」とはいえないという考えから、営業日数の上限が180日となっているのです。
また、民泊新法(住宅宿泊事業法)は、自治体が条例などで更に規制をかけることも可能なのです。
「民泊」に反対する自治体では、180日という営業日数の上限をさらに短縮する条例(例えば金曜〜月曜のみ営業可能など)を制定することもできるので、管轄の自治体に問い合わせて確認することをオススメします。
大きな収益は期待できない
最大で1年間に180日しか営業できないため、限られた営業日数で利益を出さなければなりません。
民泊営業で大きな利益を上げるのは厳しいでしょう。
近隣住民とトラブルになりやすい
民泊が抱える問題として、近隣住民とのトラブルがあります。
外国人観光客が宿泊した場合、文化や習慣の違いにより、庭でバーベキューをする、深夜まで騒ぐ、ゴミ出しのルールが守れない、エレベーターや廊下など共用部分を汚すなどのトラブルが実際に起きています。
また治安面から、見知らぬ外国人観光客が、入れ替わり立ち替わり住宅街や集合住宅を出入りすることに、嫌悪感を抱く人もいます。
できれば「届け出」を行う前に、周辺住民へ説明し、理解を得ることが望ましいとされています。
民泊の届け出をする前にチェックすべきこと
- 「民泊営業」を禁止している区域やマンションがあるため確認が必要
- 消防法令適合通知書を入手する必要がある
「民泊営業」を禁止している区域やマンションがあるため確認が必要
住民の反対やトラブルを懸念し「民泊営業」に消極的な地域もあり、自治体によっては「条例」を設けて営業日数や区域を制限している場合もあります。
民泊用の物件を用意したのに、営業が禁止されていたということにならないよう、管轄の自治体に問い合わせて確認しましょう。
また、マンション(書類上の正式名称は区分所有物)の一室を民泊に活用したい場合は、「マンションの管理規約」を確認する必要があります。
外国人観光客が頻繁に出入りしている部屋があることで、「トラブルになるのではないか」「マンションの価値が下がるのではないか」「共有部分が荒れてしまうのではないか」「オートロックなのに宿泊者が自由に出入りできてしまうのは不安」といった声から、「民泊営業」自体を禁止しているマンションも多くあります。
届け出をしようとしている住宅が、借家の場合は、大家さんの承諾書(転貸承諾書)、マンション(区分所有建物)の場合には、管理規約などの提出が必要になります。
マンション1棟すべてを「民泊施設」として営業する場合は?
マンションの1室だと、他の住民とのトラブルになりがちな「民泊」ですが、マンション1棟まるまる「民泊施設」として営業する場合はどうでしょうか?
この場合も、自治体によって「民泊条例」が違うため、管轄の自治体に直接確認するのがオススメです。
消防法令適合通知書を入手する必要がある
民泊を始める場合には、「消防法令適合通知書」の提出が必須となっているため、まずは消防法に適合しているかの確認をする必要があります。
民泊サービスは、オーナーの住んでいる住宅の一部屋を貸し出すタイプの民泊である家主居住型(ホームステイ型)と、オーナーの所有だが実際には住んでいない住宅の一部屋を貸し出すタイプの民泊である家主不在型(投資型)に分類されますが、タイプや面積によって必要な消防設備が変わってきます。
申請をする前に、必要であれば設置工事などを行う必要があります。
どのような消防設備が必要なのかを大まかに説明しますが、管轄の消防署に問い合わせる方がスムーズで確実です。
【家主居住型(ホームステイ型)の場合】
民泊に使用する面積が建物全体の半分以下で50平方メートル以下である場合は「一般住宅」であるとみなされるため、消防設備は必要ありません。
民泊に使用する面積が50平方メートル以上である場合や、民泊に使用する面積が建物全体の半分以上を占める場合は、消火器、自動火災報知設備、誘導灯が必要になります。
【家主不在型(投資型)でマンションの場合】
集合住宅の1部屋で「民泊」を行う場合は、自動火災報知設備、誘導灯が必要になります。
申請に必要な記載事項
申請は、事業主ごとではなく、届け出住宅ごとに必要になります。
【申請に必要な記載事項】
- 名称(届出住宅の名称)
- 所在地(届出住宅の所在地)
- 届出住宅が存する防火対象物の延べ面積(㎡)
- 届出住宅部分の床面積(㎡)
- 宿泊室の床面積の合計(㎡)
民泊の届け出の仕方
民泊の問題点を理解し、民泊営業が可能であるかどうかを確認したうえで、民泊を始めるのであれば、家主居住型(ホームステイ型)、家主不在型(投資型)を問わず、まずは都道府県知事に届け出をします。
ただ、家主不在型(投資型)の民泊を営業する場合は、住宅宿泊管理業者への委託が必要になります。
【届け出書の内容】
- 商号、名称、または氏名および住所
- 法人である場合、役員の氏名
- 未成年である場合、法定代理人の氏名住所
- 住宅の所在地や不動産番号など
- 営業所または事務所を設ける場合、その名称および住所
- 住宅の管理を委託する場合、住宅宿泊管理業者の商号、名称または氏名
- 住宅の図面
先ほども説明したとおり、届け出をしようとしている住宅が、借家の場合は、大家さんの承諾書(転貸承諾書)、マンション(区分所有建物)の場合には、管理規約などの提出も必要になります。
民泊営業の届け出は、観光庁の民泊制度ポータルサイトの「民泊制度運営システム」で行うことができます。
民泊制度運営システムとは?
民泊制度運営システムは、住宅宿泊事業者、住宅宿泊管理業者、住宅宿泊仲介業者の事業を営もうとする者が、届出や申請、報告などの手続きの一部を、オンライン上で行うことができるシステムで、民泊制度運営システムを利用するためには、「電子証明書」が必要になります。
住宅宿泊管理業者・・・民泊施設の運営や管理を代行する業者
住宅宿泊仲介業者・・・民泊施設を貸したい人と、民泊施設に泊まりたい人をマッチングさせる業者

電子証明書を取得する方法
電子証明書とは、本人であることを電子的に証明するもので、書面取引における印鑑証明書に代わるものです。
個人の場合は、マイナンバーカードの電子認証システムを活用できます。その際には、ICカードリーダーか、マイナンバーカード対応NFCを搭載したスマートフォンが必要です。
電子証明書の取得の手順は次の通りです。
【手順1】専用ソフトウェアのダウンロード
電子証明書の発行申請をするために必要なファイルを作成するため、法務省ホームページから専用ソフト「商業登記電子認証ソフト」をダウンロードします(無料)。
【手順2】電子証明書の発行申請に必要なファイルの作成
「商業登記電子認証ソフト」を起動して、「鍵ペアファイル及び証明書発行申請ファイルの作成」をクリック後、必要事項を記入します。
ファイル作成結果を保存後、「電子証明書発行申請書」をプリントアウトし、手書きで必要事項を記入します。
【手順3】電子証明書の発行申請
手順2で作成した「電子証明書発行申請書」と、「SHINSEI」ファイルのみを保存したUSBメモリ、印鑑カードの3点を持参し、管轄の法務局か登記所に提出し手数料を支払います。
法務局と登記所に違いはありません。
法務局も登記所も、登記事務をつかさどる国の行政機関を指しており、同じと考えて問題はありません。
本来、登記事務は、法務局と法務局の支局・出張所が取り扱っています。
そのため「登記所」という役所はなく、登記事務を扱うことから法務局の呼称として使用されています。
電子証明書の発行にかかる手数料は、証明期間が3ヶ月の場合2,500円、6ヶ月で4,300円、9ヶ月で6,100円と、27ヶ月まで3ヶ月当たり1,800円を加算して計算されます。
窓口に上記を提出すると「電子証明書発行確認票」が交付されます。
また、電子証明書の発行申請は郵送でも行うことができます。
「商業登記電子認証ソフト」で作成した申請書と「SHINSEI」ファイルのみを保存したUSBメモリ、印鑑カードの3点と、切手を貼付した返信用封筒を送付します。
印鑑カードも同封しなくてはならないため、普通郵便ではなく補償が付く「書留」などで送付(返信用も同様)するのがおすすめです。
【手順4】電子証明書の取得
登記所(または法務局)から帰ってきたら、手順1でダウンロードした「商業登記電子認証ソフト」を立ち上げ、「電子証明書取得」をクリックし、電子証明書をダウンロードします。
手順2で作成した「鍵ペアファイル」と、登記所(または法務局)から発行された「電子証明書発行確認票」が必要です。
民泊営業の準備と民泊オーナーの義務
民泊の届け出が完了したら、民泊営業の準備を開始します。
民泊の予約手続きは、インターネット仲介業者を介して行われることが多いため「住宅宿泊仲介事業者」との契約が必要になることもあります。
そして住宅宿泊事業者(オーナー)には、「民泊新法」によって次のような義務が課されます。
標識の掲示
届出住宅ごとに、届け出済みの民泊施設であることを示す標識を掲示する義務を負います。
門扉や玄関など、地上1.2メートル~1.8メートル程度の認識しやすい位置に掲示します。
宿泊者の衛生・安全の確保
「感染症等衛生上のリスク」を減少するため、居室の広さ(台所、浴室、トイレ、洗面所、廊下、押入れ、床の間を含まない)は、宿泊者一人当たりの床面積が「3.3 ㎡以上」確保できるよう、宿泊人数の制限を行います。
寝具や備品は宿泊者が入れ替わるごとに取り替えて常に清潔な状態を保ち、定期的に清掃、換気を行います。
非常用照明器具の設置、避難経路の表示など、宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置を講じる義務があります
外国人宿泊者への外国語による案内
外国人宿泊者に対しては、外国語で必要事項の明示をするなど、外国人宿泊者の快適性や利便性を確保する必要があります。
設備の使用方法、最寄り駅や利便施設への経路など利用できる交通手段、消防署・警察署・医療機関・住宅宿泊管理業者への連絡方法などが記載された外国語の書面を居室に備え付けたり、タブレット端末への表示させるなど、情報を提供する義務があります。
近隣住民とのトラブル防止のため、守るべきマナーやルールも外国語で表記するなどして、周知徹底させる責任があります。
宿泊者名簿の備付け・提出
宿泊者名簿は、代表者のみの記載は認められておらず「宿泊者全員」の記載が必須です。
その上で、宿泊グループが分かるように記載すること、宿泊者が外国人である場合は、国籍および旅券番号を保存すること、宿泊名簿は3年間保存することが定められています。
宿泊者名簿は、自治体からの要求があった場合、提出しなくてはなりません。
営業日数の報告
民泊の営業日数を、2ヶ月ごとに自治体に報告する義務があります。
日数の数え方は、宿泊者を募集した日数ではなく、実際に人を宿泊させた日数で算定し、事業主ごとではなく届け出住宅ごとに算定します。
報告は「民泊制度運営システム」で行うことができ、営業日数と宿泊者数、延べ宿泊者数、国籍別の宿泊者数も合わせて報告します。
報告を怠った場合や、虚偽の報告をした場合には、30万円以下の罰金刑に科される可能性があります。
周辺住民からの苦情への対応
宿泊者が外国人である場合、文化や習慣の違いから、周辺住民とトラブルに発展することもあります。
宿泊者に守るべきマナーやルールを教えることはもちろん、周辺地域の住民からの苦情や問い合わせについては「深夜早朝を問わず、常時、対応する必要があると「民泊新法」に定められています。
すぐに回答ができずに保留する場合は、回答期日を明示するなどの配慮が必要です。
民泊を個人で行う場合は「開業届」の提出を。
民泊を個人事業として行う場合は、民泊の届け出とは別に、個人事業を開始したことを申告する届け出を行いましょう。
それが「開業届」「個人事業税の事業開始等申告書」です。
開業届とは?
「開業届」とは、個人事業を開業したことを「税務署」に申告するための書類で、正式名称は「個人事業の開廃業届出書」といいます。
「個人事業の開廃業届出書」は、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
提出期限は、原則として開業してから1か月以内とされています。
開業届を提出すると、個人事業主の税金に関する案内が税務署から届きます。
個人事業税の事業開始等申告書とは?
「個人事業税の事業開始等申告書」とは、個人事業を開業したことを「都道府県」と「市区町村」それぞれに申告するための書類です。
提出期限は、都道府県や市区町村により様々です。
なぜ何度も開業を届け出なくてはいけないの?
税務署にも「開業届」を提出したのに、都道府県、市区町村にもそれぞれ「個人事業税の事業開始等申告書」を提出しなければいけないのでしょうか。
理由は、税金には国税と地方税があるためです。
国税は税務署が、地方税は都道府県と市区町村が取り扱うため、別々に届け出る必要があるのです。
民泊の「開業届」。提出しないとどうなるの?
実は「開業届」も「個人事業税の事業開始等申告書」も、提出しなかったからといって罰則はありません。
しかし、提出することで大きなメリットがあるため、届け出を行う人がほとんどです。
「開業届」を提出する1番のメリットは、節税効果の高い青色申告で確定申告ができるようになることです。
青色申告って何?
確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。
「青色申告」は「白色申告」と比較すると、節税面で様々な特典があるため、税金が安くなります。
ただ、「青色申告」は、開業日から2か月以内に税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出しておく必要があるため、開業届(個人事業の開廃業等届出書)を提出する際に一緒に届け出をしておくのがオススメです。
提出し忘れてしまうと自動的に「白色申告」となってしまいます。